富士山山小屋での仕事(生活)で学んだことなど

友人の紹介で、縁あって、富士山の標高3000mを超える場所にある山小屋で約3か月弱の期間、仕事(生活)をさせていただきました。

自分にとって、山小屋で仕事、高所での生活など、かなりのことが初めてでした。

そんな経験の中で、気が付いたこと、勉強になったことなどを掲載してみたいと思います。

酸素が薄い

皆さん知ってのとおり、標高が高い場所なので、酸素が薄いです。
事前に情報を得たり、調べたりしていましたが、実際に生活してみて強く実感したことがいくつかあります。

疲れやすい、息切れしやすい

仕事で動き回っていると、地上にいる時よりも、結構疲れやすく、息切れしやすいです。
個人的に、一番息切れしやすかった動きは、「重い物をもって歩いて運ぶとき」だったと思います。
更に、「重い物をもって、天井が低い場所などを”中腰”になって進むとき」は、追加で太ももにも負担がかかっているからか、もっと息切れしやすかったです。
何も持たずに早歩きをするとか、単に軽く走る程度では、そんなに息切れしなかったのですが、この「重い物を持って運ぶ」という行動は、多くの酸素を消費しているのでしょう。
そんな感じがしました。
ちなみにですが、特に、登って来た当初は、無理して体を動かし続けると、これが原因で高山病にかかりやすくなるかもしれません。
「体はゆっくり動かしなさい。それも、自分が思っているより、更にゆっくり。」
最初の頃、そう言われました。
登って来て1週間くらいして、体が慣れてくれば高山病になるリスクは低くなると思いますが、それまでは気を付けていたほうが良いと思います。

頭が働かない

仕事上、売店でお釣りの計算や、お客さんの人数から仕事で必要なものの数を計算したりするのですが、何だか、頭がよく働きません。計算の速度が鈍くなる感じです。
酸素が薄いと、頭の回転が悪くなるそうです。ここでの仕事のベテランの方々から、そのようなことをよく聞きました。
また、注意力や体の動きも多少なりと鈍くなっていると思いますので、数字の計算だけでなく体を動かしたりするときも、普段よりよく注意しながら動かないと、怪我に繋がりやすいと思います。

怪我や病気の治癒が遅い

酸素が薄いと、怪我や病気の治癒が遅いらしいです。
少し極端な言い方かもしれませんが、地上では酸素が多いので、その酸素により「生命を維持」+「怪我や病気の治癒」までを体が行えるのですが、酸素が少ない高所では「生命の維持」で酸素が使われてしまい、「怪我や病気の治癒」にまで酸素が行きわたらないんだそうです。
なので、怪我をしてしまうとなかなか治らないし、風邪をひいたら「山を降りないと治らない」なんてことも言われたりするそうです。(←極端な言い方ですが)
実際、山を降りたらあっという間に治るらしいです。
なので、体調管理や怪我には注意しておく必要がありました。

酸素の大切さがわかった

酸素が薄い環境では、全般的に人間の普段の能力が低くなってしまう。
逆に、地上では酸素が濃い(これが普通なんでしょうけど)。
「人間って、少し酸素が薄くなっただけで、こんなに体の働きが悪くなるんだ」と、酸素の有難さを実感しました。
同時に、人間が住んでいる環境(地上)って、宇宙から見ると、本当に安定した環境で、凄く恵まれているんだなと思いました。地球の生物って、そんな環境に生かされている、本当にちっぽけな存在なんだなと思いました。

高山病について

ネットで検索すれば、色々情報が出てくると思いますし、専門的なことはわかりませんので、その辺りの説明はしません。
高山病は、標高が高い場所へ行った際に頭痛や吐き気などの症状を総称するような呼び名だそうです。
私も登って3日目になりました。
高山病になりやすい人、なりにくい人がいて、誰でもなり得る病気らしいです。
一度下山して、数日後に登ってきて高山病になる人もいれば、毎年登ってきているから大丈夫、と何年も高山病になっていない人もいます。
体質やそのときの体のコンディションにもよるのでしょう。
また、高山病は、上に登れば登るほど症状が悪化し、下にくだればくだるほど症状が軽くなるそうです。
簡単に言うと、高山病になったら、一刻も早く下山したほうがいいということです。
そうすることで、一気に治るそうです。
ちなみに自分が本格的に罹患したのは、3日目の早朝(まだ夜中)。
夜中に目が覚めて、症状としては、激しい頭痛+息苦しさ。
そのまま何とか寝て、朝を迎えました。朝食を取ろうとしましたが、まだ症状が結構残っていて、朝食も少し残しました。
その後、その日は1日お休みをいただくことに。
基本的な治療は、ゆっくり休むこと。
「飯+パブロン」+「寝る」、の繰り返し。
あと、水分を意識してとっていなかったのも高山病になった原因かもしれないと、後で直感的に思いました。
他、思い出してみると、1日目、2日目もほんの少~しだけ、頭痛のような感じがするな~とは思っていました。そのときは、「これくらいなら普段もあり得るかな」と思っていたけど、それもある種の前兆のようなものだったのかもしれません。
無理したつもりはありませんでしたが、見込みが甘かったのでしょう。
療養中、仕事場のベテランさんから「軽い高山病だね」と言われました。
高山病で亡くなる方もいると聞いたことがあったため、それと比べたら「軽い」のでしょう。
1日ゆっくりしたら治ったのでよかったです。
その後は、日を重ねるごとに体の調子が良くなってくるというか、どんどん慣れてきたというか、登ってきて一週間くらいしたときは、体が環境に完全に慣れた感じがしました。
とはいえ、酸素が薄いのに変わりはないので、行動のパフォーマンスは低いままですが。
何はともあれ、高山病はどんなに予防しても、なるときはなるようなので、病気になること自体は恥ずかしがらず、予防方法をきちんと見て、それに従って行動(登山)するようにしたら良いと思います。
私の場合は仕事で来ていましたし、「治れば良し」でしたが、プライベートで登山に来られたときに高山病になると、せっかくの楽しい登山が一転、地獄(頭痛や体調不良で苦しみながら、何時間も山道を上り下りする苦行)と化しますので、ならないに越したことはありませんよね。

風が強い

風が常に強いというわけではなく、風がほとんどないような良い天気のときもありますが、強いときはかなり強いです。
ニュースなどで台風情報を見ると、最大風速20mとか25mという数字を見ることがあるかと思いますが、ここでは台風じゃなくても25m超えのときもあります。
台風が来たときは、驚きました。
仕事でどうしても外に出て作業しないといけないことがあり、外への扉を少し開けたら、とんでもないような風が吹いていました。その風に当たると、たぶん、本当にぶっ飛ばされてしまうんじゃないかというくらいの風。
私が今まで目の前で見た風で一番凄い風で、この風をくらったら命はないと思いました。
この風が少し収まったときに外へ出て作業したので、無事、戻って来れましたが、もしまたこんな風が吹いて来たらと思うと、ゾッとするどころではありませんでした。
あと、外に干していた物が風で飛ばされたことが何度かありました。
飛ばされた物が人に当たると危険なので、飛ばされないように処置はしているのですが、想像を上回る風が吹くと飛ばされてしまいます。

山小屋は頑丈にできている

台風のときは、1~2日間くらい山小屋もお休みになったりします。
そのときはもちろん外に出ると危ないので、山小屋の中で過ごしますが、外で「地上では家が倒壊してしまうんじゃないか」と思うような物凄い風が吹いていても、山小屋は少し揺れるくらいで、壊れるような感じはほとんどありませんでした。
窓も工夫されていて、ガラスではなく、アクリル板のようなものになっています。
また、それも「しなる」ように出来ているので、どんなに強い風でも「しなって」風の力を吸収し、割れたりすることはありませんでした。
ある方が「すべてのこと(山小屋の構造)には理由がある」と、山小屋の建物は、昔から今に至る様々な人たちの知恵を基に、色んな面で工夫されて作られているということを語っていたのが印象的でした。

雷について

私が滞在している期間は、山小屋が雷雲に囲まれることはありませんでした。
昔、囲まれたことがあるときの話を聞くと、もちろん、山小屋内に隠れているしかないのですが、とても恐ろしいそうです。(あたりまえでしょうけど)
ただ、そのとき、山小屋の窓から外を見ると、登山道を這うようにして電撃が走っている光景が見えたりするそうで、可能であれば見てみたかったなとは思っています。
今シーズンで私が見たのは、夜、山小屋から遠くを眺めた時に、遥か遠くに大きな雷雲があって、そこで稲妻が激しく光っている景色くらいです。
雷のゴロゴロは聞こえなかったので、相当遠くだったと思いますが、その相当遠くであると思われる場所の雷がよく見えて、あんなのが近くに来たらひとたまりもないだろうなと、自然の驚異をつくづく感じました。
人々は、こんないつ変化するかもわからない微妙な世界、環境で生かされていて、少しいる場所が違っただけで命を落とす。地上で生活していたときは、そこまで考えなかったけど、生と死は常に隣り合わせで、自分達はそんな世界に生きているなんだなと思いました。

落石や土砂崩れが怖い

落石や土砂崩れの「被害に遭う」怖さ

どんなに頑丈にできている山小屋でも、落石や土砂崩れは怖かったです。
今シーズンは落石などでの被害は聞きませんでしたが、以前は、大きな岩が落ちてきて、山小屋が大破してしまったことがあるという情報をいくつか聞きました。
そのときは突然「ドーン!」と凄い音がして、地震かと思うような地響きがしたそうですが、それは巨大な岩が落ちて地面に当たった音らしく、その岩は下の方の山小屋めがけて転がり落ちて行き、山小屋に当たり、その山小屋は建物の半分くらいが破壊されてしまったそうです。
他、台風や大雨のときは、落石などに備え、スタッフもより安全な場所で休憩したり、寝たりします。
2階建ての山小屋でも、1階で寝るようにして、それもなるべく、「谷(山の下)側)」の場所で寝ます。
もし岩が落ちて来たら、山頂側の屋根に落ちるでしょうし、そうなると屋根に近い、上の階から壊れることになるからでしょう。そこに人がいると大変なことになります。
あと、ベテランさんが、土砂崩れが起きにくい場所を教えてくれたりしました。そして、過去に土砂崩れのようなことがあった場所では寝させてくれませんでした。
とにかく「絶対に危ないところでは寝させない」、「最も安全な場所にいるように」、ということでした。

落石の「加害者になる」怖さ

「落石を発生させないように」と、登山のパンフレットとかにもよく書かれています。
これは、落石させると、下にいる登山客などが怪我をしてしまうからです。
と、簡単に言うとこんな感じですが、落石をさせてしまい、下にいる人に当たると、その人は死んでしまいます(もしくは大けがをする)。
富士山は割と単純な地形(斜めにず~っと斜面が続いているような感じ)なので、石や岩が転がりだすと、止まりません。むしろ、その斜面を、ドンドン勢いを増しながら転がっていき、とんでもない凶器になります。
下にいる人はそれに当たると死にます(もしくは大怪我)。
落石被害を防ぐためのシェルターや、大きな岩止めのようなものをいっぱい設置されてはいますが、すべての落石は到底防げません。
仕事上、登山道から少し外れて、急な斜面で作業することもありましたが、そのときは、「落石をさてしまわないか」が、もの凄く怖かったです。
斜面の石や岩は、少し刺激を与えただけで転がり落ちていってしまいそうな不安定な状態のものもあり、凄く神経を使いました。
作業中、一度だけ、直系30cmほどの石を注意不足で転がしてしまいました。
下の岩止めで止まったようでしたが、もし人に当たってしまっていたら・・・、と考えると、とても怖くなりました。
その後は怖くて、斜面には行きたくありませんでした。
それくらい、落石をおこすのは怖かったです。

富士山には缶やビンのゴミがよく落ちている

山小屋では、毎朝、外のゴミ拾いをしていました。
そこでは風に飛ばされた登山者の帽子、手袋、他、もちろんポイ捨てされたようなゴミなどもありますが、古く錆びた空き缶や、割れて年数がかなり経ったようなビンの欠片などもよく見かけます。
毎日拾っているのに、古い缶やビンの欠片が、何故かまた次の日には落ちている。
最初はあまり気にしなかったのですが、ここの山小屋でビン類の飲み物は売ってないし、こんな古い空き缶が捨てられるはずがないと、不思議に思っていました。
後々、周囲の方々からお聞きしたのですが、富士山では昔、ゴミを埋めて捨てていたんだそうです。
それで恐らく、雨風などで、ゴミが地中から出て来たり、山頂方面の斜面にあったその古いゴミが落ちて来たりするんでしょう。
複数の山小屋スタッフが集まってのボランティア清掃をするようなイベントも数回あったのですが、最近捨てられたようなゴミだけではなく、古いゴミを大量に拾います。
半分冗談でしょうけど、「富士山はビンと缶で出来ているんだよ」と言うような方もいらっしゃるくらいです。
私も、環境問題とかゴミの削減とかには興味があるのですが、この富士山にきて、ちょっとそのイメージに変化があったかもしれません。
こんな世界遺産にもなった富士山。昔から登山者も多く、日本一、日本の象徴にも使われるような山。遠くから見ると、凄く綺麗で素敵な山なんだけど、近くでよく見て、話を聞くと、ゴミが地中に大量に埋まっている。
埋めたのは、恐らくかなり昔の人なんだろうけど、例えば今、この綺麗な富士山から「ゴミをなくしたい!」と取り組んだところで、不可能に等しいんじゃないかと思った。
今の人は悪くない、でも昔の人もそれが当時は普通だったんだろう。
誰も悪くない。(←って言えるのかわからないけど)
この巨大で、急斜面が続く富士山。
少し足場の注意を欠くと落石を起こしてしまうので、土は掘れない。
一体、昔の人がどのくらいのゴミを埋めたかもわからない。
もしかしたら、目に見えない地中は、もっとゴミで溢れているかもしれない。
富士山ですら、こんな状態。
だとすると、世界にももっとこんな場所が数多くあるんだろう。
「ゴミをなくそう」、こう言って取り組んでいる人(自分も含め)に、こういった事実を知っている人がどのくらいいるんだろう。
「ポイ捨てをやめる」とか「ゴミを減らす」とか、そういうことは良いこと、大切なことであるとは思っている。
でも正直、この富士山の現実を知ったとき、もうそういった個人や小グループの活動では到底解決できない、表面にあるゴミは見えなくできるかもしれないけど、こういった過去からのゴミ、地中などのような見えない場所にあるゴミは、対処のしようがない。
そういった規模感を認識しているのだろうか。
少なくとも、自分は全く認識していなかったし、そこまでの実感を持っていなかった。
海のマイクロプラスチック問題も、色々聞いているものの、知っているようでわからない、何となく知っているような気になっている。イメージもどこか漠然としたものだったからか、そこまで実感もわいていなかった。
実際、その場に足を運ばないとわからない。
それも1~2日程度とかではなく、少しじっくり住んでみて、その実態に触れていかないとわからない。
そうしないと、深く認識することはできない。
これは、誰かを批判しているのではありません。
今回ここに来てみて、こういったことを、素直に感じてしまったということです。

水が貴重

富士山には水道は通っていません。
雪解け水、雨水などをろ過したりして綺麗して使います。保健所による水質チェックもされているようです。
売店で販売するペットボトルの水は、地上からブルドーザーで運んでもらいますが、かなりお金がかかるそうです。
ということで、生活水はかなり節約しないといけません。
雨が続けば、水がたまるので、余裕が出てきますが、雨が降らないと大変なんでしょう。
今年は、お客さんやスタッフの数をかなり減らしているので、割と余裕があったようですが、通常はそうはいかないのでしょう。
今年はお風呂は週に1回、洗濯物も同じくらいの頻度。
昔は、水の節約のために数週間お風呂に入れなかったということもあったそうです。
しかし、ここの環境は、割とお風呂に入れなくても耐えられました。
寒いから汗もかきにくいですし、環境的にばい菌なども繁殖しにくいのでしょうか。
体や服などもなかなか臭くなりません。
強いて言えば頭はかゆくなるので、洗いたくはなります。
でも、生活にも慣れ切った最後の辺りは、下着も含めて服は1週間ずっと同じものを身に着けていて、お風呂のときに替えるくらいになっていました。
ちなみにお風呂には大きなバケツがあり、「1人につき、そのバケツ1杯」が1回のお風呂で使用できるお湯、というようなルール?のようなものもありました。
また、水節約のために、「先に体を洗って、その後、頭を洗うときのお湯で一緒に体も流す」という技を教えていただきました。
これは地上の生活でも使えると思いました。
歯磨きするときもコップ1杯の水で、口ゆすぎから歯ブラシの清掃まで、すべてを終わらせます。
と、色々と節約するコツもいくつか身につきましたし、何より「地上では水を贅沢に使いすぎだったかな・・・」と反省する心が芽生えました。

総じて・・・

書ききれていないこともあるでしょうけど、ここに来たことは、総じて、とても良い経験になったと思います。
普段の生活で使っている水などの有難さを感じ、また、ゴミのことなど、自分の考えを少し見直してみるきっかけにもなったと思います。
世の中には色んなことがありますが、やはりこうやって経験してみないとわからない、実感がわかないようなことが多くあります。
今回滞在した期間で私が経験できたことは、富士山の、そして山小屋生活のほんの一面に過ぎないのかもしれませんが、それでも、来て良かったと思います。
紹介していただいた友人を始め、ここで出会った皆さんに心から感謝しています。